信託においては、受益者が信託財産を保有しているものとして考えますので、その収入も受益者に帰属します。例えば、賃貸物件を持っている父親が「委託者」兼「受益者」、息子を「受託者」とする信託契約を結んだ場合、その家賃収入は受益者である父親のものになります。したがって、父親は従来どおり所得税を申告し、納税する必要があります。
不動産を信託財産とする信託契約をし、登記を行うと、登記簿の所有者欄には受託者の名前が載ります。ただし、所有権移転の原因は「信託」、肩書は所有者ではなく「受託者」となり、受託者自身が不動産を取得したわけではないことが明示されます。よって不動産取得税は課税されません。
不動産の「売買」で所有権移転登記を行う場合、登録免許税が原則固定資産評価額の2%なのに対し、「信託」の場合の登録免許税は原則 0.4%です。つまり、通常の所有権移転に比べると、信託に関する登録免許税は比較的軽減されています。
固定資産税は、1月1日現在、固定資産課税台帳に記載されている人に納税義務があります。信託の登記を行うと所有者の欄には上の例でいうと受託者(息子)の名前が記載されますので、登記の翌年から支払い通知は受託者(息子)宛に届きます。ただし、固定資産税は息子の個人財産ではなく信託財産の中から支払うべきものです。
受益者が他界し、その受益権が次の受益者に引き継がれた場合、あるいは受益者の他界により信託契約が終了し、信託財産が残余財産帰属権利者に引き渡された場合は、相続税の課税対象となります。なお、相続税法における信託財産の評価額は、信託財産とする前でも後でも基本的に同じです。そのため、土地であれば路線価等を、建物は固定資産評価額をもとに評価します。ここでは小規模宅地等の特例などの減額措置もすべて適用となります。つまり、信託制度を採用しても相続税評価額については影響ありません。信託による直接的な節税効果はありません。
信託と贈与税の関係については、大きく2通りのコースがあります。1つ目は「自益信託」と呼ばれる信託の仕組みです。例えば、父親を委託者、息子を受託者として設定し、受益者を父親本人とする場合です。「委託者と受益者が同じ」ですから、この場合では財産権の移転がなかったことになり、贈与税の対象外となります。2つ目は「他益信託」と呼ばれる仕組みです。委託者は父親、受託者は息子と同じですが、受益者を孫に設定するというケースがこれにあたります。この場合では、信託契約を組成した時点で父親から孫に財産権が移転したとみなされて、贈与税の対象になります。したがって、受益者を誰にするかは贈与税に関する重要なポイントとなります。なお、この際、相続時精算課税、夫婦間の居住用不動産の贈与の特例、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の特例等の制度の適用を受けることも可能です。